日本の農業が大きな岐路に立っています。現在120万人いる農業就業者が、10〜15年後には約40万人にまで減少すると予測されており、食料安全保障の観点からも持続可能な生産体制の確立は喫緊の課題です。
こうした背景のもと、2026年4月、学生コミュニティ「次世代BASE」と一般社団法人東北経済連合会が連名で「アグリテックを核とした農業とその関連産業の成長に向けた共同提言」を発表しました。本記事では、この提言の内容を4つのポイントに整理し、アグリテックが農業にもたらす可能性をわかりやすく解説します。
📋 この記事でわかること
- 提言の背景と「AgriTech Lab」とは
- 提言①:イメージの転換と発信
- 提言②:教育・人材育成の強化
- 提言③:参入促進と支援の仕組み
- 提言④:新たなビジネスモデルの創出
- まとめと今後の展望
提言の背景と「AgriTech Lab」とは
日本農業が直面している課題は、単なる担い手不足にとどまりません。「3K(きつい・汚い・危険)」という固定観念に縛られ、次世代層や異業種からの参入が進みにくい構造的な問題があります。しかし、2024年10月に施行された「スマート農業技術活用促進法」をはじめ、アグリテックや異業種参入を推進する政策が強化されており、農業を「稼ぐ産業」へ転換する大きなチャンスが生まれています。
東北・新潟地域は水田面積や多品目生産で全国有数の規模を誇り、スマート農業や異業種連携を通じて地域の成長産業へ進化させるポテンシャルを秘めています。こうした背景から、2025年10月25日、東北経済連合会と学生コミュニティ「次世代BASE」が連携して「AgriTech Lab」を開催。様々な専攻の学生約60名と農業生産法人・異業種参入企業等から約70名が参加し、農業の未来を多角的に議論しました。
💡 アグリテック(AgriTech)とは?
スマート農業よりも広く、農業のあらゆる課題に対して技術とビジネスで革新を起こす概念。農業×バイオ・フードテック(代替肉・植物工場)、農業×流通・マーケティング(D2C・ブロックチェーントレーサビリティ)、農業×金融・保険(農業向けファイナンス・気象リスク保険)など幅広い領域を含みます。
| 課題 | 現状 | 目指す姿 |
|---|---|---|
| 担い手不足 | 就業人口120万人→10〜15年後に約40万人 | 次世代・異業種の参入促進 |
| 固定観念 | 「3K」イメージが参入障壁に | テクノロジー×農業の新しい像 |
| 収益構造 | 「生産量=収益」への依存 | 環境・データ等も収益化する新モデル |
イメージの転換と発信
次世代層や異業種が農業に魅力を感じて参入するためには、まずイメージの転換とその発信が不可欠です。SNS時代に合った新しい農業像のブランディングが、参入障壁を取り除く第一歩となります。
①新しい農業像のブランディング
「ワクワク」「スペシャリスト」といった農業像をSNS・メディアで発信します。学生がコンテンツ制作に関わり、次世代層に響くストーリーを創出することで、農業を「挑戦とクリエイティビティの場」として再定義します。
②エンターテインメントとの融合
「ドローン種まき競争」や「農業×eスポーツ」など、学生のアイディアを取り入れてエンターテインメントとの融合を推進。農業を「楽しさ・挑戦・創造の場」として再定義します。
③デジタル農業を象徴とした職業イメージ刷新
AI活用による省力化・経験値の共有化など、ITと融合していく新たな農業の魅力を前面に押し出します。デジタルネイティブ世代の学生のDXスキルを活かしたプロジェクトを展開することが鍵です。
🌾 東北・新潟の生産者の声
- 「コンテストはいつも”美味しいお米”を競うものしかない。エンターテインメント性は次世代層が農業に目を向けるためにも必要」
- 「実際の農業現場はスマート化された部分とアナログ的な部分が混在している。次世代層には先端農業現場の実態を知ってもらう取り組みが必要」
教育・人材育成の強化
未来の農業を支える人材が不足するため、育てる仕組みを今つくらなければ産業そのものが持続できません。食育にとどまらず、「スマート化が進む食料生産の実態」を正しく理解させる段階的な教育が重要です。
①義務教育・高等教育における「農業×テクノロジー」体験の必修化
昔ながらの田植え・稲刈り体験だけでなく、IoT等を活用した農業体験を通じ農業と先端技術の関係性を学ぶ機会を国主導で設計します。地域教育機関・農業法人と連携し、小学校〜高校までの段階的なカリキュラムを構築することが求められます。
| 学齢 | 体験内容(例) | 目的 |
|---|---|---|
| 小学生 | 自然体験・食料との関わりを知る | 食料に関心を持つ |
| 中学生 | ドローン・自動化等の省力化機械体験 | 技術への関心を持つ |
| 高校生 | 営農・食料自給の職業・生産体験 | 職業・キャリアとして認識する |
②学生コミュニティを活用した「リアルな学びの場」創出
地域活性化等に関心の高い各地の学生コミュニティを活用し、現場での課題発見・解決策立案を経験することで、農業を「挑戦と創造の場」として次世代層に認識してもらいます。
③次世代層のキャリア観の形成
デジタル人材との交流機会を設け、生産者の課題解決と地域のDX人材育成を同時に実現する仕組みを構築します。
🌾 東北・新潟の生産者の声
- 「子供の農業体験が”鎌による稲刈り体験”に止まっており、スマート農機を利用した生産性の高い現場を体験する機会がない。旧来型のイメージを今も作り出している」
- 「学生の農業体験を受け入れたいと考える農家は一定数いる」
参入促進と支援の仕組み
農業への参入は、情報不足・孤立感・資金不安が障壁となり、いまだに高いハードルが残っています。異業種や次世代層が安心して参入・定着できる環境整備が求められます。
①異業種・次世代層の参入を支えるコミュニティ基盤
地域内外の人材・企業・行政が連携するオープンコミュニティを整備します。情報共有・人的交流の場を確保することで孤立感を解消。学生や生産法人等が連携し、企画・研究・広報など多様な関わり方ができる仕組みを構築します。
②就農ロードマップ+キャリア形成支援
資金・技術・経営を包括するロードマップを構築し、参入から定着までの過程を可視化します。単なる補助金にとどまらず、実践的なキャリア形成を支える仕組みへの転換が重要です。
🌾 東北・新潟の生産者の声
- 「”やまがた農業女子ネットワーク”のコミュニティに救われたという人もいる。学生も加わることでSNS等でのポジティブな情報拡散が期待できる」
- 「十分な計画性がないまま就農し、補助金受給期間のみ農業を行った後に離農してしまうケースもある。ロードマップは就農後の定着対策としても有効」
- 「東北・新潟の農業者育成学校の修了生ネットワークが弱く、新しい技術や課題解決の情報を得にくい環境となっている」
新たなビジネスモデルの創出
従来の農業は「生産量=収益」という構造に依存してきました。農業が持続的に成長するためには、環境・データ等も付加価値として収益化する新たなビジネスモデルの創出が求められます。
カーボンクレジット活用
環境価値を経済価値に転換し、農業を「生産+環境貢献」の産業へ進化させる。学生が研究・提案に関わる仕組みを整備する。
データ利活用・自動化
学生がAI・IoTを活用した農業モデルを構築し、IT実装を生産者に提案。高付加価値型の収益モデルを創出する。
異分野連携による事業創出
建設業・情報通信・化学・食品加工など異業種と農業の共創を促進。学生が「触媒」として異分野をつなぐ役割を担う。
🌾 東北・新潟の生産者の声
- 「生産者の収益源を増やす試みは素晴らしい。次世代とともに新ビジネスを構築したい」
- 「農業由来のカーボンクレジットは規模の小さい農家にとっては組成の手間がかかる割に価格も高くなく、収益の柱にはなりづらい」
- 「食料生産に関心を持つ若い人は多いが、どこがその関心に応えてくれるか分からない。AgriTech Labは国主導で全国各地で開催されるべき」
おわりに:農業イノベーションのハブへ
AI・IoT・ロボティクスなどの先端技術を活用することで、農業は経験や勘に頼らない、生産性の高い産業へと進化しています。「次世代BASE」および東北経済連合会は、今後も東北・新潟における先進的な活動に積極的に関わり、当地域が食料生産の中核拠点として日本の経済成長と食料安全保障に貢献することを目指しています。
| 提言の柱 | 目指す姿 |
|---|---|
| ① イメージの転換と発信 | 農業を「ワクワク・創造・スペシャリスト」の職業として再定義 |
| ② 教育・人材育成の強化 | 小学校から大学まで段階的な農業×テクノロジー教育の実現 |
| ③ 参入促進と支援の仕組み | オープンコミュニティと就農ロードマップで参入から定着を支援 |
| ④ 新たなビジネスモデルの創出 | 環境・データ・異分野連携で「稼げる農業」の新構造を構築 |
まとめ:産業・教育・行政・学生の連携が鍵
本提言は、農業を取り巻く構造的な課題に対して、技術だけでなくイメージ・教育・コミュニティ・ビジネスモデルという4つの軸から総合的にアプローチするものです。単なるIT導入ではなく、次世代層が主体的に関わることで農業をイノベーションのハブへと進化させる青写真といえます。
📌 提言が示す農業変革の4つの軸
- イメージ刷新:SNS・エンタメ・デジタル化で「農業=カッコいい仕事」に
- 教育改革:農業×テクノロジー体験を義務教育から段階的に必修化
- 参入支援:オープンコミュニティと可視化されたロードマップで孤立感を解消
- 新ビジネス:カーボンクレジット・データ活用・異業種連携で収益構造を多様化
本提言が起点となり、産業・教育・行政・学生が連携して持続可能な農業モデルの構築につながることが期待されます。アグリテックの可能性に関心のある方は、ぜひ「AgriTech Lab」の取り組みにも注目してみてください。

